text by 宮内健

─前作のソロ・アルバム『Music Library』のリリースから12年も経ってることに、まずビックリしました(笑)。
「そうなんですよね(笑)。長いっちゃ長いけど、あっという間な気もしますね。自分が今年40歳になったんですけど、30歳、40歳と区切りの年に思い出に残るものがあるといいなと思ってて。30歳になる前にに作ったのが前作のソロ『Music Library』で、今年はそれを再発したり、自分の音楽活動を網羅した本を出版するんですけど、そこに今の自分がやれるソロ・アルバムを作ってみたいと思って、いい機会かなと考えて作りました」

─再発になった12年前のソロ『Music Library』を40歳を迎えて改めて聴いてみて、どんな印象を受けました?
「なんかヘンテコだなとは思いましたね(笑)。当時のテーマはSCAFULL KINGでは出来ないような、歪んだギターも入ってなくて、キーボードで遊びたいっていうのが一番にあったんですよ。BPMもスキャフルより遅いし、ゆったりした曲をやりたいっていうのもあったし。ものすごく遊びで作ったんで、それを形にしたようなアルバムで」

─あれも思えば、FRONTIER BACKYARD(以下、FBY)結成前に出たんですよね。
「FBYの前ですね。スキャフルを活動休止して、自分の中でもこれから何しようかなぁって考えてた頃のものだから、アルバムのコンセプトみたいなものはまったく無かったんです」

─SCAFULL KINGというバンドを経験して芽生えた、いちミュージシャンとしての表現欲を、そのまま出してみようという。
「そうでうね。それを形にしてみたことで、そのままFBYをはじめとする、自分の活動へとつながっていったのかもしれない。もちろん、あのアルバムもいろんな人の力を借りて出せたわけですけど、音源制作については、ほとんど一人でやれたっていうのが、一番大きかったかもしれない。」

─そんな前作を経て、FBYでの活動がはじまって。バンド活動の間に、僕が編集していたフリーマガジンの『ramblin'』で、TGMXくんには『Music Laboratory』という連載で、毎月いくつかあるお題の中からテーマを選んでもらって、オリジナル音源を作ってもらうっていう企画をやってもらっていましたね。
「『ramblin'』でやらせてもらってた企画はホント楽しくて。以前に比べるとひとりで音源を作るのも簡単になってきて、その音源を簡単にフリーダウンロードしてもらえる時代になってきて。気軽な音楽っていう感覚も面白かったし、そこで読者やリスナーとつながるっていう経験も出来たし。あとは、バンド活動とは別に、僕が弾き語りでライヴをしはじめたことが大きくて。そういう個人活動の集大成みたいなものが、今回の『I CAN'T SING IT』になったんだと思います。

─12年前の作品と比べるのもアレかと思うんですけど、やっぱり表現方法がより豊になっているというか。アルバム一枚の中で、いろいろなスタイルが混在している感じがありますね。
「そう、前作のソロとか『ramblin'』の連載でやらせてもらってたような、PCで作る打ち込み音楽みたいなものを今までずっとやってたんですけど、10年ぐらい時間を経たら、逆に打ち込みじゃなくて生でやりたくなってきたんですよね。完全にアコースティックなワケじゃないんですけど、シンセの音があふれるようなモードではなくなってきた」

─DEKITSや弾き語りは、TGMXくんの中でも発見が多かった?
「弾き語りするようになって、生楽器の良さがわかるようになってきたんです。生楽器の良さがわかるようになったから、弾き語りをはじめたのかもしれないですけど。かと言って、シンセの入った音楽を全然やりたくないわけじゃないんですけど、あの手の音はすごくやってたんで、ちょっと距離を置いてみたいなって思ったんですよね」

─TGMXくんはもともと、その時々で自分の中で流行っているものを音楽表現に昇華していくっていうのを続けてきたわけでね。
「だから、今の40歳になるポイントとしては、こんな感じなのかなって思いますね(笑)」

─そう思えるようになったのは、年齢を重ねたからなんですかね?
「たぶん回転するんじゃないですかね。また打ち込みとかがカッコイイなって感じる時期も来ると思うし、自分の中の流行りが回転してるんだと思う。それにバンド続けてきて、音楽経験も重ねてきたから、人間っぽい訛りとか、楽器の縒れ具合とかがむしろイイと思えるようになってきたんで。以前は演奏が合ってなかったりすると、下手だとか、リズムが悪いって解釈してたんですけど、そういうのを味として捉えられるようになってきた」

─たしかにスキャフルの時は、生演奏でいかに緻密に音を構成していくかっていうスタイルだったし。
「そういうのはさんざんやってきたんでね。今は打ち込みの曲も、わざとテンポをズラしたりしてるし」

─いろんなものを楽しめる余裕が出来たからこそ、っていうのもあるのかもしれない。
「そうですね。いろいろ解釈する能力が備わってきたから、楽しめる対象も増えてきたというか」

─ソロ・アルバムの話に入る前に、DEKITSでの活動や、ソロの弾き語りについても訊きたいんですが。
「DEKITSは一応“フォーク・カルテット”ってことになってるんですけど。ギター持って歌いたい時に歌うような、楽しんで軽く出来ればって思ってたんですけど、アルバムも出したりしたから、以前よりはちゃんとやろうと思うようになっても、今でもいい意味でふざけていられるというか。僕のソロの弾き語りなんかは、ヒドイっちゃヒドイんですよね(笑)。自由に使っていい30分をいただいた、とような感覚なんで。たとえば2曲ぐらいやって、そのあとのおしゃべりが面白かったら、それはそれでいいかなっていう(笑)。ソロの弾き語りにしてもDEKITSにしても、バンドと相反する物がやりたかった。そういう経験をしたからか、ドラムとかベースとか必ずなければいけないっていう既成概念からとらわれないで変わったことがしたいなって思えるようになって。

─今年前半に行った、ケイシくんとの弾き語りツアーはどんな印象でしたか?
「ケイシと〈TWIN SONGS〉という長いツアーをやったんですけど、ケイシもRIDDIM SAUNTERを解散して音楽的な転機を迎えてた頃で。年齢も僕が40歳になる年に、彼はちょうど10歳下なんで30代を迎えて。30歳ってやっぱり転機なんですよね。僕も30歳の頃には、解散こそしなかったけどSCAFULL KINGを休止してソロ出したりした頃だったんで、そんな話をしながらツアーを回ってましたね」

─自分ひとりでギターを抱えて、自分のタイミングで歌いはじめて、自分だけのリズムで歌うことが出来るのは、経験を重ねて、歌の訛りや音の縒れを楽しめるようになったということとつながってる感じがしますね。
「そうですね。逆にいうと、自分で動かないと何もはじまらないんで、バンドのほうが楽だなっていう部分はありますね(笑)。信頼出来るメンバーがいるからそこは任せればいいというところはあるし。そういう意味では、ソロも楽しいけど、バンドのほうがすげえなって思うっていうオチ(笑)」

─家出して5日目ぐらいに、実家の良さにあらためて気付くような?
「そうそうそう(笑)。やっぱみんないないとダメだなって。でも、メインのバンドと、あえてプロジェクトとして楽しんでるバンドと、あとはソロでバランスよくやれるのは幸せだなって思いますね」

─では、今回のアルバムについて訊かせてください。バンドのヴォーカリストのソロ作品なのに『I CAN'T SING IT』っていうタイトルなのがまず気になりましたが(笑)。
「とくに深い意味はないんですけど(笑)、なんとなく歌についてのタイトルにしたいなとは思ってて。『I CAN'T SING ANYMORE』でもよかったんすけどね(笑)」

─1曲目の「under the stargate」からドリーミーにはじまりますね。
「最初の曲はバンドでは出来ないようなものにしたかったんで、ドリーミーな、ちょっとチルアウトっぽいようなものをを作りたかったんですよね。たまにクラブとか4時5時ぐらいでかなり酔っぱらってる時に、スローな曲がめちゃくちゃ気持ちよく聞こえる時にないですか? ああいうのを自分でも作ってみたいなって思って」

─電車に揺られながらイヤホンで聴いていたりしても、この曲はどこか違う世界にフワッと連れていかれるような感じになります。
「うん、そういうのが作りたかったんですよね。バンドだと、1曲目はパンチがある曲を入れたくなるけど、ソロ・アルバムならユルッとはじまるのもいいかなって」

─少し遠くのほうで鳴っているようなあたたかみのある音や、コラージュしたようなサウンドの質感は、アバランチーズあたりと通じるような感じもしたんですが。
「アヴァランチーズは以前から好きだし、少し意識したかもしれないですね。なんか褪せたような音してるじゃないですか? 冬にリリースされるアルバムなので、冬空みたいなのをイメージはしましたね。僕は実家が栃木で、最近はあまり降らないけど、雪が積もって月が出ている夜が好きなんですよね。白くて綺麗じゃないですか? 田舎なので星もよく見えるし、月も出てるから夜でも結構明るくて。正月に実家に帰った時なんかに、そういう光景を酔っぱらいながらボーッと眺めてるのが気持ちいいんですよね。東京だとそういうのってあまりないじゃないですか? 田舎は時間もゆっくり流れてるし」

─ある意味ではTGMXくんの原風景を音にした感じなのかもしれないですね。そこから「Today」というさわやかな曲へと展開していく。
「エレキギターが入ってなくて、アコギとエレピとベースが入ってるんですけど、それもずっとやってみたかったリズム構成なんですよね。それも静かな曲じゃなくてアッパーに仕上げるっていうのを。自分にとって、変わった曲が出来たかな。ベースは(村田)シゲでドラムはTDCくんなんですけど、いつものTDCくんじゃない手法でやってって、レコーディングの時にはお願いしました。ドラムセットに布をかぶせて叩くっていう、レゲエの人がよくやるようなデッドな音を出してもらったり。バンドと違うドラマーを頼むんじゃなくて、TDCとちょっとふざけたことをしてみたかったんで。だから失敗してもいいよ! っていうのは、すごく言ってましたね。もしかしたら失敗したほうが面白いかもっていうぐらい(笑)」

─今回のアルバムは、いろんなミュージシャンが参加しているんですか?
「全般的に、いろんな人に協力してもらって作ったんです。トランペットは浅草ジンタのシーサーに吹いてもらって。トランペットを自分で吹かないっていうのも、自分の中ではテーマでしたね(笑)。シーサーとサックスのナリくんにホーンセクションは全般的にお願いして。あと「Today」ではCBMDの高本さんに一瞬歌ってもらったり。そういうアクセントになるユーモアエッセンスも入れたいなって思ってお願いして。ソロなんで、スタジオにちょっと遊びに来てくれた人に、なんかやってって手伝ってもらったり、そういう依頼の仕方でしたね」

─そのあたりの制作方法も前作のソロとは違いますよね。
「前のアルバムは、ちょっとゲストに入ってもらったけど、ほとんど自分一人だけで作ったんで。今回はあえていろんな人に参加してもらってますね。本当はもっと多種多様な人にお願いしようと思ったんですけど、単純に時間がなくて」

─「Today」の歌詞については?
「ある日、めちゃくちゃいいことがあったよっていう、それだけの内容なんですけどね。自分にとって、すごくいい日だなって思う時ってありませんか? たとえば友達と飲んでる時にめちゃくちゃいい話が出来たとか、帰りにタクシーに乗ったらすごく近道してくれたとか(笑)、そういう小さいラッキーが積み重なった日のようなね」

─前の曲とは違う感じでキラキラしてるような。でも、サウンドがとびきりに明るいのでもなく、少しせつなさもあって。
「それは少し狙ってたかもしれないですね。デッドな音で、かといって地味にならないような。本当はめちゃくちゃ地味な曲を作ろうとか、サビの部分がないとか、アルバム作ってる中でテーマはあったんです。バンドじゃ絶対に出来ないようなね。でも、作ってみるとやっぱりサビの部分が欲しくなっちゃうから、結局、自分はポップな音楽が単純に好きなんだなって思いましたね。すごーく地味で暗い曲とか作ってみようと何回かトライしたんですけど、出来ないし、出来てもあんまりいいと思えなかったんですよね。やっぱりそういうのはあんまり好きじゃないんだなって再確認しました」

─曲調がポップなぶん、ありきたりな起承転結じゃなく、余韻を残したまま終わらせてるあたりが面白いですよね。
「それも、バンドじゃないんで、余計にそんな感じでもいいかなって。僕の集中が切れたあたりで曲が終わっていくという(笑)。とにかくFBYに似ないようにしようっていうのはありましたね。やってる人間も一緒だからどうしても似ちゃうところは出てくるし、スタジオも同じところでエンジニアもいつもお願いしてる及川さんなので。とにかく、いつもと違う感じっていうのはしつこくおねがいしてました」

─3曲目は日本語詞による「AKIRAME NO NATSU NI」。
「自分の作品で日本語詞は初めてだったんですよね。弾き語りをやってみて、楽器と歌と言葉しかないんじゃないですか? そこで日本語が重要だなってわかってきたんですよね。なので、日本語の曲を増やそうと思って、今回は数曲しか出来なかったんですけど。日本語欲は増してきてますね。日本語の良さがやっとわかってきた。それまでは日本語以外だったらなんでもいい、意味がわかんないぐらいがいいって思ってたんですけど、それが逆になっちゃいましたね」

─あえて日本語詞に真正面から向き合ってみると、やはり難しさがある? 
「ものすごく難しいですね。それこそサザンオールスターズなんかもそうですけど、日本語でいい曲っていうのは昔からたくさんあるわけじゃないですか? 日本語でいい曲でいい歌詞を作るっていうのは、奇跡みたいなもんだと思いますね。歌詞の世界は深いなって、あらためて気付かされました」

─弾き語りの時も、日本語詞の曲は歌ってたんですか?
「歌ってました。カバーも多いし、FBYの曲で英語詞のものを少し日本語に変えて歌ったり。震災以降、被災地でやらせてもらったりすることがあると、僕らのことを知っているわけじゃなく、ただ音楽が聴けることを楽しみに来る人も多いわけじゃないですか? ちょっと年を召された方とか。そういう人たちにもわかる言葉で歌って、元気になってもらいたいって考えると、やっぱり英語じゃないだろうって思って。そういうことも考えましたね。歌詞に関しては、とくに弾き語りをやったことが大きいですね」

─タイトルはサザンの「夏をあきらめて」を連想させますけど(笑)。
「いやぁ、〈あきらめの夏〉っていうのは、僕の中でどうしてもいい響きなんですよねぇ。とくにそういう内容の歌詞でもないですけど。何ひとつ上手くいかなかった夏、みたいなイメージですね(笑)」

─夏っていうと、甘酸っぱい方を連想しちゃうタイプですか?
「そうですね、ギラギラにぶっ飛ばしてこうぜ! みたいなのよりは、夏の夕方のほうが好きですね。7月よりも、8月後半。あぁ、終わっちゃうなぁっていう感じ。7月とか、まだ青いっすよね(笑)」

─そのあたりにも、40代に突入した感覚が出てますね。人生も午後に入ってきたような(笑)。
「そうそう。やや暮れてるほうがいいじゃないっすか。」

─4曲目の「opposite」は密室的なファンクで、TGMXくんの趣味が詰まったような。
「そうですね、これが一番僕の趣味に近いですね(笑)。この曲は元DOPING PANDAの古川(裕)とBACK DROP BOMBのTAKA(白川貴善)にも参加してもらってるんですが、ヴォーカルを何人かで歌い回す曲をやってみたかったんですよね。TAKAと古川も、お互いがなんでこの二人なんだろうって思ってただろうけど(笑)。ワンループの曲をずっと回していってヴォーカルだけが入れ替わっていく、レゲエでいうラバダブ・スタイルみたいなのもイメージしつつ。タカとの共作みたいなのは、初めてでした。」

─古川くんとの共演みたいなのも久しぶりですよね。
「超久しぶりですね。たぶん、解散したからまた近くなったんですけど(笑)。いやまぁ、それは冗談で、ずっと付かず離れず連絡は取りあってはいたんですけど、やっぱりDOPING PANDAやってる時は、彼も自分でやってるから忙しそうで、以前に俺がプロデュースしてたから気になってはいたけど、あまりバンドのことは話さないほうがいいと思ってたんで。今は彼も個人でやり出したりしてて、そういうスタイルがいいなって思って、また古川と密に連絡を取り合うようになって。今回のアルバムに入ってる何曲かは、古川がレコーディングエンジニアとして録ってくれてるんですよ。彼はDOPING PANDAで活動してる時からエンジニアもやるようになって、自分のスタジオも作ったんですよ。そのスタジオでやってみたかったんで、何曲か歌を録ってもらったり、ヴォーカルのディレクションをお願いしたり」

─ヴォーカルについてのジャッジを、他人に委ねるのは珍しいことなんですか?
「ヴォーカルについては初めてですね。もしかしたらそういうことを言ってくれる人がいたほうがいいのかなって思って。あらかじめ録ってきたヴォーカル・ラインを渡して、ちょっと相談しながら、じゃあこうして録りましょうみたいなところからはじまって。マイクの種類とか指向性とかその場でアイディア出してもらいつつ。初めて僕もヴォーカルのことだけ考えられました」

─かつて自分がプロデュースを手がけたバンドのメンバーに、今度は自分自身がディレクションしてもらうっていうのも面白いですよね。
「そうですよね。古川もエンジニアはじめてから、自分のヴォーカルについていろいろ悩んだらしいんですよ。そういう経験をしたことも知ってたんで、それは信頼出来るなって。〈(ピッチが)ちょっとズレてますけど、こっちのほうがいいと思います〉みたいに指摘してくれたり。FBYでも、ヴォーカルについてはメンバーからそんなに言われることもないから、新鮮ですよね」

─なんかいい関係ですね。それも、この10年の間であった変化というか。
「彼らもメジャーに行っていろいろ大変なこともあったろうし、いろいろ経験もしただろうから。後輩というか友達という感じが近いですね」

─意外だったのは、ビッグバンド風なサウンドでスローなワルツを歌う、5曲目の「china blue cocktail」ですが。
「その曲が一番アルバムの中で気に入っていて。バンドではまったく出来ないような感じですよね。ブラック・ミュージックのメロウなバラードをイメージしてたんですが、それが出来たのがよかった。曲も気に入っているし、演奏してもらった人も気に入ってるんですが、ヴォーカルは俺じゃなかったほうがよかったかなとも思ってるんですけど」

─そんなことないでしょう?(笑)。 
「いやあ、まわりに黒人のソウル・シンガーいなかったかな? って思ったんですけどね。これもドラムはTDCで、70年代ソウルっぽいデッドなドラムの音にして。ベースは打ち込みで、ホーン隊はシーサーとナリくんがやってくれて。TDCのドラム以外は自宅のスタジオでの作業が多かったですね。柳くんっていうキーボード弾いてくれた人とは、データのやりとりで重ねていって。彼から〈ミスマッチかもしれません〉ってアイディアを出してくれたんですけど、そのミスマッチ感がよかったり。全体がバラバラなことをやってきたら、意外と変わった方向に着地した曲になりました」

─普通に考えたら、ミュージシャン全員が一緒に揃って音を出して一発で録るような曲だけど、この曲はいびつな感触が面白いんですよね。
「そこは結構狙ってたかもしれないですね。普通に合わせたら普通に整っちゃうから。一度も練習もしてないし、合わせてないからそういう印象受けるのかもしれないですね」

─あえてドラマチックになりすぎないようにしてるような。80年代のジョニー・ギター・ワトソンなんかを連想しました。
「生バンドでやっちゃうと、ものすごく艶が出てきちゃうんで、なるべく艶が出ないようにしたかったんですよね」

─タイトルは?
「最近飲んで美味しかったカクテルの名前ですね(笑)。真っ青なカクテルなんだけど、10杯以上飲みましたからね。クラブで飲んですごく美味しくて、その夜の楽しかった思い出の曲です(笑)」

─6曲目の「I listen to music alone」は、以前、花楓さんに提供された曲のセルフカバーになるんですかね?
「曲自体は以前からあったんですけど、バンドでやる感じじゃなかったので、寝かせておいたんですよね。花楓ちゃんのアルバムに収録された曲はチャーベくんのアレンジなんですけど、今回は80年代後半から90年代頭のニュー・ジャック・スウィングみたいな感じにしたくて。音質も近づけたたかったんですよね。ニュー・ジャック・スウィングの曲って、なんでもないんですけど、妙な高揚感があるんですよね。まぁ、結果としては違う方向行っちゃいましたけど(笑)。結構気に入ってます」

─7曲目は「Night comes」という曲ですが。
「ケイシの曲に〈Morning comes〉っていう曲があるんですけど、それとコードがほとんど一緒で違うメロを付けただけで。でもパクリじゃなくてオマージュです(笑)」

─和歌でいう、本歌取りみたいな。
「一緒にTWIN SONGSのツアーで回ってる時に、とってもいい曲だなって思って。今年はやっぱりFBY以外で、僕のソロ活動の中ではケイシなしでは語れない年になったんで。25本ぐらい二人でツアー回りましたからね。だから、僕からの勝手なアンサーソングですね」

─ケイシくんとのツアーはやはり刺激を受けましたか?
「受けましたねぇ。10歳も下なのに、バンド解散してソロのバンドはじめて。ちょっと前まで豆みたいな子だったのになぁって(笑)。ちゃんと自立したミュージシャンになってて」

─ケイシくんは、SAKEROCKの伊藤大地くんとか集めてソロのバンドでライブをやったりしてますけど、TGMXくんも同じようにソロ活動もバンド形態でやろうとは思わなかったんですか?
「いや、これ以上バンド増やすのは無理っす(笑)。バンドしたかんなら、TDCとかケンジとかスキャフルのみんなとやるほうがいいなって思うし。もしやるなら、メンバー全員女の子とかがいいですね」

─ロバート・パーマーのPVみたいに、モデルみたいな女の子をバックバンドに従えて?
「ただのエロおやじになるだけですけどね(笑)でも、ちょっとかっこいいかなと。」

─8曲目は「Take me back there」。
「この曲は2001年ぐらいからある曲で、前のソロを作り終わってからすぐに出来た曲なんですよね。あるテレビドラマの音楽をやらないかって依頼されたことがあって、時間がなかったんで、京都で1週間ぐら滞在してレコーディングしたんですよね。その中の1曲だったんですけど、ソロを出した時に入れようって思ってた曲で。ずっとあっためてました。当時はMTRで録ってたんで、音源もパートごとに分かれてたわけじゃなかったんですよね。だから、昔の音源を何回も聞き直して、もう一度録音し直して」

─かなり手間がかかっちゃいましたね(笑)。
「この曲ではKatが一緒に歌ってくれてるんですけど、最近仲良くなったんですけど、歌声がとてもよくて。80'sっぽいサウンドだし、自分の高校ぐらいの時をイメージした歌詞だったんで、甘酸っぱい感じが出てよかったですね。音質もリバーブかかったスネアがパーンって鳴ったり。そういうのっていくつになっても好きなんだなって(笑)。80年代っていうのはやっぱり一番多感だった時代だから、刷り込みが強いんだろうなって思いますね」

─それを一度遠ざけてしまう時期もあるけど、また時間を経て、やっぱり好きだったんだなって再確認してしまうような(笑)。続いては「BABY,CHILD」という2分弱の曲。
「この曲はギターをモ~リス(YOUR SONG IS GOOD ヨシザワマサトモ)がギターを弾いてくれてるんですけど、ユアソンでは見られないスリーフィンガーのテクニックを披露してくれている(笑)。モーリスのギターがすごくいいんですよね。これも古川のスタジオで録音したんですけど、あいつもギターは相当上手いけど〈モ~リスさんのスリーフィンガーは絶対に出来ない〉って言ってましたね。ユアソンでライヴでぶっ飛ばしてるような印象とはまったく違うギターの魅力を持っていますね」

─曲自体にはどんなテーマが?
「自分が子供だった頃の歌を書こうと思って作った曲なんですけど、まずスローで歌った歌をCD-Rに焼いて。それをプレイヤーで回転数を上げて再生したものをもう一度録って。そこに違う演奏をつけるっていう、かなりローテクなやり方でしたね」

─PC上でやればすぐできそうなものを、なんでまたそんな面倒くさいやり方で(笑)。
「PC上でも出来たけど、ちょっとデジタルっぽくなりすぎちゃうかなって思ったんで。最近、Star Slingerみたいに子供みたいな高い声をサンプリングに使う人が多いじゃないですか? 黒人の昔のソウルの音源を回転数上げてサンプリングしてループさせたり。そういうのをやってみたくて。曲調はまったくフォーキーですけどね」

─10曲目は、こちらも日本語詞の「KARUI KIMOCHI」。
「これこそケイシと一緒にツアーを回ってた時に、そのツアーのために作って毎回二人で歌ってきた曲で。あえてリリースしなくてもいいかなって思ってたんですけど、入れるとしたら僕のソロかなって思って。ライブと同じように、ケイシにコーラスしてもらって」

─ケイシくんのヴォーカルの魅力ってどんなところに感じますか?
「やっぱり、涼しいですよね。キャラクターも涼しいけど、声が暑苦しくないから聴きやすい。聴いてて気持ちいいしスッと入ってくる声だから。あれは彼独特な綺麗な声だなって思います」

─RIDDIM SAUNTERの時から、曲調はソウルっぽくても、ケイシくんが歌うと涼しげな印象に変わりますもんね。
「そう、あれはやっぱり声の力だと思いますね。〈KARUI KIMOCHI〉は、全国で歌ってたからすごく思い入れがありますね。いつも二人で演奏してたから、こないだ一人で弾き語りしたら、なんか変な感じがしたし。40歳の思い出の曲です(笑)」

─なるほど(笑)。続いての「cumbi」はガラリと変わったダンストラックです。
「これはJxJxくん(YOUR SONG IS GOOD サイトウ“JxJx”ジュン)と一緒に作った曲で。打ち込みでちょっとジングルみたいにしたんですけど、もうちょっと欲しいなって思ってJxJxに頼んでみようって思って。そしたらすごく親身になっていろいろ考えてくれて。とにかく長くすると簡単だから、短い曲にしようって。1分ぐらいの中に、ムーンバートンとかやりたいことをどれだけ盛り込むかっていうのを、二人で延々話して」

─JxJxと一緒に作業してみての印象は?
「JxJxはすごく的確に意見をくれるんですよね。曲のモードを大切にするというか。あと、JxJxの家のご飯がとても美味しかったです(笑)また行きたい。」

─そしてラストの「ever change」。
「ここ最近、ピアノでも弾き語りをするようになったんですよね。弾き語りって言っても、ちょっとコード押さえながら歌うだけなんですけど。で、ピアノでもそういうオリジナルの曲を作りたいと思って、簡単に弾けて簡単に歌えるものを作ってみたら、わりとすぐに出来て。実家に誰も弾かないアップライトピアノがあるんですけど、FBYのライブのエンジニアのヤナギダくんが地元が一緒なんで、彼を栃木の実家に連れていって、マイクと機材を全部持ち込んで初めて実家でレコーディングしたんです」

─そうなんですね! 実家には家族もいたんですよね?
「いましたね。お母さんもおばあちゃんもいる中で、すげぇ恥ずかしかったんですけど(笑)。昔ラジカセの内蔵マイクでテレビの歌番組を録音してた時みたいに、〈ちょっと、お母さん黙ってて!〉って(笑)。そのラジカセが今はPCに変わったような。だから、なんか思い出は出来ちゃいましたね。ピアノも僕が小さい頃からあったものなんで、40歳の記念になったかなって(笑)」

─ピアノも、何十年目にしてやっと陽の目を見ましたね(笑)。
「まさか、そのピアノでレコーディングするとは思わなかったですからね。ピアノも僕がミュージシャンみたいな事になってるとは思わなかったかも。〈お前、音痴だったじゃねぇか!〉って(笑)」

─それにしても、家族も含めてTGMXの身の回りの人やモノがいろんなところで関わった作品になってますよね。
「自分の人生で関係あるものを、すべて巻き込んだようなね。バンドはじめて20年ぐらい経つけど、今まで音楽をやってきたことで出会ったものを、結構盛り込めた感じはあります。」